2026.02.02

砂漠の夜を彩る:カシュガルのナイトマーケットと地元の活気

タクラマカン砂漠の西の端、パミール高原の麓に位置するカシュガルは、古くから「東洋と西洋が出会う場所」として栄えてきた。昼間のカシュガルは、歴史ある旧市街の土壁が太陽に照らされ、独特の静けさと威厳を放っている。しかし、太陽が地平線に沈み、空が深い藍色に染まる頃、この街は全く別の顔を見せ始める。それこそが、旅行者を魅了してやまない「夜市」の時間である。

カシュガルの旅において、夜市は単なる食事の場所ではない。そこは、何世紀にもわたって受け継がれてきた食文化、人々の熱気、そしてオアシス都市ならではの豊かな恵みが凝縮された、生きた博物館のような場所だ。では早速、カシュガルの夜を彩るナイトマーケットの魅力と、そこに息づく地元の活気について紹介する。

煙と香りが織りなす食の迷宮

夜の帳が下りると、カシュガルの旧市街近くや広場には、無数の屋台が一斉に明かりを灯す。遠くからでも見える白い煙と、風に乗って漂ってくる香ばしい匂いが、道行く人々の足を自然と市場へと向かわせる。

市場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、炭火で焼かれる羊肉の串焼き「カワップ」だ。新疆ウイグル自治区観光の代名詞とも言えるこの料理は、ここでは桁違いの迫力を持っている。日本の焼き鳥のようなサイズではなく、鉄串に刺された大きな肉の塊が、クミンや唐辛子などのスパイスをたっぷりとまぶされ、豪快に焼かれている。脂が炭に落ちてジュッという音を立て、スパイシーな煙が立ち上る光景は、まさに食欲を刺激するエンターテインメントである。

その隣では、黄金色に輝く「ポロ」が大鍋で作られている。羊肉、人参、玉ねぎ、そして干しぶどうと共に炊き上げられたご飯は、羊の旨味をたっぷりと吸い込んでいる。カシュガルのポロは特に甘みが強いと言われる黄人参が使われることが多く、脂っこさの中にも優しい甘みが感じられるのが特徴だ。

「シルクロードの台所」を支える豊かな食材

カシュガルのナイトマーケットを歩くと、ここが砂漠の中のオアシスであることを強く実感させられる。屋台には、肉料理だけでなく、色とりどりの果物や野菜も所狭しと並んでいるからだ。

特に夏から秋にかけては、ハミ瓜やスイカ、ブドウ、イチジクなどが山積みになっている。日照時間が長く、昼夜の寒暖差が激しい新疆の大地で育った果物は、驚くほど糖度が高い。食後のデザートとして、その場でカットされた冷たいメロンを頬張る人々も多い。また、ザクロをその場で絞ったフレッシュジュースも人気があり、その鮮やかな赤色は夜市の灯りに照らされて宝石のように輝いている。

さらに、「ナン」の種類の多さにも驚かされる。顔よりも大きな平たいナンから、ベーグルのような形をしたギルデ・ナン、胡麻や玉ねぎが練り込まれたものまで、そのバリエーションは無限だ。焼き立てのナンと、羊のスープやヨーグルトを合わせるのが、地元の定番スタイルである。こうした豊かな食材の数々は、シルクロード旅行の醍醐味の一つであり、過酷な砂漠を越えてきた旅人たちを癒やす命の源であったに違いない。

地元の人々と交差する活気ある空間

観光地化されたマーケットとは異なり、カシュガルの夜市は地元の人々の生活の一部である。仕事帰りの男性たちが串焼きを片手に談笑し、家族連れがテーブルを囲んで麺料理「ラグマン」をすすり、子供たちが甘いアイスクリームをねだる。そこには、飾らない日常の風景が広がっている。

聞こえてくる言葉も、ウイグル語が中心だ。賑やかな呼び込みの声、炭火を煽る音、食器が触れ合う音が混ざり合い、独特の活気を生み出している。ウイグル観光の面白さは、こうした現地の熱気の中に身を置くことにある。言葉が分からなくても、身振り手振りで注文をし、店主が笑顔で焼きたての料理を手渡してくれる瞬間に、言葉の壁を超えた温かいコミュニケーションが生まれる。

また、市場の一角では、伝統的な楽器の演奏や歌が始まることもある。音楽と踊りを愛するこの地の人々にとって、食事の場は社交の場であり、表現の場でもあるのだ。夜市全体が、一つの大きな宴会場のような雰囲気に包まれている。

交易の交差点としての記憶

カシュガルの夜市を歩いていると、ふとシルクロードとは何だったのかを考えさせられる瞬間がある。目の前にある料理や食材を見ても、小麦文化、羊肉文化、そして様々なスパイスが融合しており、まさに東西の文化が混ざり合った結果であることが分かるからだ。

かつて、隊商(キャラバン)たちがこの地に到着し、市場で物々交換を行い、互いの文化を語り合ったように、現代の夜市もまた、様々な背景を持つ人々が集う場所となっている。シルクロード都市としてのカシュガルの役割は、形を変えながらも、この賑やかな市場の中で脈々と受け継がれているのである。

旅として体験する、カシュガルの文化の深層

こうしたカシュガルの夜市に見られる活気ある日常の裏側には、この地がシルクロードの要衝として育んできた、より深い文化層が息づいている。星享鉄旅(Train of Glamour)が運行するラグジュアリー観光列車「シルクロード夢享号(Silk Road Express」では、カシュガル滞在を単なる観光に留めず、地域文化を体験として味わうプログラムが組み込まれている。

2000年以上の歴史を持つカシュガル旧市街を訪れ、古代西域都市の構造を今に伝える街並みを専門解説とともに歩くことで、交易都市カシュガルが歩んできた時代の層を立体的に理解することができる。また、高台に広がる伝統集落では、喀什印花や土陶といった無形文化遺産の手仕事体験を実施する。列車専属のホスピタリティスタッフが同行し、専用のティーブレイクとともに、装飾や文様に込められた意味を学びながら静かな時間を過ごす。

夜には、新疆の食文化と精神文化を象徴する「木卡姆(ムカーム)」のカスタムディナーへと向かう。新疆料理を味わいながら、歌・舞・演奏が融合したユネスコ無形文化遺産「十二木卡姆」の世界に浸るひとときは、昼間の市場とは異なるカシュガルのもう一つの顔を感じさせる。

市場の喧騒、職人の手仕事、そして音楽と食が交差する夜。シルクロード夢享号が提案するのは、カシュガルという都市を「見る」のではなく、「層として体験する旅」なのである。

カシュガルの夜を楽しむために

カシュガルの夜は遅い。中国の標準時(北京時間)を採用しているが、地理的には遥か西にあるため、夏場であれば夜の10時を過ぎてようやく空が暗くなる。そのため、ナイトマーケットが本当の盛り上がりを見せるのは、深夜に差し掛かってからだ。

眠らない街、カシュガル。その夜市は、単にお腹を満たす場所ではない。スパイスの香り、人々の笑顔、そして千年の歴史が積み重なってできた独特の空気感を肌で感じる場所である。シルクロード観光でこの地を訪れるなら、ぜひホテルの部屋にこもらず、夜の街へ繰り出してほしい。そこには、ガイドブックだけでは分からない、熱く、美味しく、そしてどこか懐かしい「砂漠の夜の物語」が待っているはずだ。